悪魔は夜歩く(3)
影山の夜 第3夜 満月だった月は、だいぶ欠けてきている。
矢車を探し求めて数日。毎夜俺は真面目に捜索に励んでいるのに、なかなか目指す相手にめぐり会えない。
目印は、スーツを着た、優しげな笑顔の男。
それらしい人間を某ファーストフードの店先で見つけ、そいつが矢車だろうと当たりをつけた。
話しかけても全然無視されるものだから、しびれを切らして首に噛み付いたら、その男はえらく肉が固かった。
しかも吸い取れるような生気もなくて、きっと矢車は、生きてても死んでるような、まあ現代人にありがちな無気力な人間なのかな、とちょっとばかり悲しく思いながらも、俺は仕事をまっとうしたはずだった。
なのに、帰ったら、ミシマさんは苦虫を噛み潰したような顔をしてる。
どうやら、俺はまたターゲットを間違えたらしい。
「おっかしいなぁ、こんなにそっくりなのに」
人違いで俺の犠牲になった優しい笑顔の人形と、ミシマさんから渡された写真の男を何度も見比べて、俺は首をひねった。
俺たちヴァンパイアの存在は、人間社会において、知る人ぞ知る。
どれだけ目撃者がいても犠牲者が出ても、政府は真実をひた隠し、街中に魔物がいることなど決して人々に明かさない。
大衆がパニックに陥るのを恐れているんだろう、とミシマさんは言う。
ZECTという組織も、表向きは治安保護の為のNPOだ。
そう聞いてたけど、このコピーは何なんだろう。
『ヴァンパイアに注意! あなたは狙われている!』
『ヴァンパイアにピンと来たら、すぐZECTへ』
地下鉄の駅の構内に貼られたポスターには、しっかり『ヴァンパイア』の文字が書かれている。
じっくり見ようとしたら、ひとりの人間が大きく溜息をついて、素早く片っ端からポスターを剥がしていく。
ポスターに連絡先住所・電話番号が載っていたけど、確認している暇はなかった。
「田所、だっけ」
そこだけ目立つように赤下線付きだった担当者名を、忘れないうちに、と俺は常に持ち歩いているメモ帳に書き留める。ミシマさんに報告しないと、あとでウルサイ。
こうして、空からだけでなく、足で出歩いて探すこともしばしば。
都会は、深夜になっても眠らない。キラキラ輝く派手な看板、店内から漏れてくる賑やかな声。
ハローページで調べたら、矢車がこの近辺に住んでると分かったので、あとは情報収集だ。何度も同じ失敗を繰り返すほど、俺もバカじゃない。
「……あのー、この人知りませんか?」
写真を手に、俺は道行く人間たちに聞いて回る。
「アラ、キレイなお兄さんだこと。でも、ウチのお客さんじゃないワねぇ」
女の格好をして着飾った男の人が、首を横に振って。
「ここには、まだ運ばれていないよ」
と、遺体安置所の職員さんも知らないと言う。
「お客様の個人情報に関しては、お答えできません」
お城みたいな外観の建物の受付嬢には、そう言って言葉を濁された。しかもお客様用駐車場に停められた車は、ナンバーが隠されているという念の入れようで。もしかして、重要機密に関わる極秘会談でも開かれてるのかもしれない。
何にしても、手掛かりは一向になし。
一体、どこに行けば矢車に会えるんだろう。
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